雲を見てくれた、その瞬間
- 早野節子
- 8月20日
- 読了時間: 2分
毎日暑いですね。青い空に入道雲が浮かんでいます。
私は入道雲を見るといつも思い出すことがあります。
かすみ草に入職してヘルパーとしての最初の仕事が、夕方1時間の移動支援でした。その利用者さんは知的障がいと歩行不安定があり、歩行機能の維持も兼ねて日中活動から帰ったあとに、手を取って近隣をお散歩するという支援です。
言葉は出ない方ですが、嫌なことがあるのか(何が原因かはよく分からない)時には泣いてしまったり、声を上げて笑ってくれることもありました。うつ向きがちな姿勢で顔を上げることが少なかったのですが、音楽がお好きで一緒に歩きながらヘルパーが歌を歌うとにっこりして顔を上げてくれたりしました。
暑い日も寒い日もこの移動支援を続けていて、私なりに少しづつ心が通じてきたように感じていて、気付いたことがあるんです。真夏のお散歩中、真っ青な空に入道雲が浮かんでいます。雲を指さして「あれは象さんみたいですね。あっちはソフトクリームみたい。」と話しかけていると、空を見てくれました。偶然かも?とも思いましたが移動支援の度に私の問いかけに雲を見てくれます。次の年もまた次の年も。なんとなく表情も和らいでいるように思いました。同じ支援に入っているヘルパーさんに「雲見てくれますよね?」と聞いても「そうですかぁ?」と言われ、私の時だけなのかな…と。だったら私だけとの特別なコミュニケーションなのか!と嬉しい気持ちで調子に乗っちゃいました。
その方とは10年以上移動支援を続けさせていただきましたが、体調を崩して残念ながら亡くなられました。足取りが不安定でも一生懸命歩いてくれた、眩しそうに空を見上げていた、公園のベンチで一緒にお茶を飲んだ、散歩の終わり頃ご自宅に向かう道になると急に歩くスピードを上げて(帰りますよー)と言わんばかりだった。言葉を交わすことはなかったけれど、会えばいつもこちらの気持ちをほっこりさせてくれた、優しい方でした。
本当にありがとうございました。もう会うことはできないけれど、大切な思い出はいつまでも心にあります。いま蝉の声を聞きながら、入道雲を見上げてあの日の移動支援を思い出している私です。



